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広島高等裁判所 平成4年(ネ)245号 判決

平成四年(ネ)第一五五号事件控訴人(以下「控訴人」という。)

藤原頼人

藤原美矢子

右両名訴訟代理人弁護士

金子利夫

吉野庄三

平成四年(ネ)第二四五号事件控訴人(以下「控訴人」という。)

関忠義

和気邦昌

右両名訴訟代理人弁護士

高原勝哉

平成四年(ネ)第一五五号事件・同年(ネ)第二四五号事件被控訴人(以下「被控訴人」という。)

株式会社アポロリース

右代表者代表取締役

安藤厚

右訴訟代理人弁護士

長尾憲治

主文

原判決中、控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に関する部分を取り消す。

被控訴人の控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に対する各請求を棄却する。

控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌の各控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて、控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子と被控訴人との間においては被控訴人の負担とし、控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌と被控訴人との間においては控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子

1  主文第一、二項同旨

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌

1  原判決中控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌に関する部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人関忠義及び控訴人和気邦昌に対する各請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

三  被控訴人

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張の要旨は、次のとおり当審での主張を付加するほか原判決事案の概要欄記載のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

一  控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子の主張

1  被控訴人の悪意又は重大な過失について

本件リース契約及び本件割賦販売契約は、いわゆる空リース・空ローン契約であったが、控訴人藤原頼人がそのことをまったく知らなかったのに対し、被控訴人の担当者中村朝行は、本件各契約の物件受領書の記載が事実でなく本件各契約が空リース・空ローン契約であることを知っていたか少なくとも知らなかったことにつき重大な過失があるから、被控訴人は、右の虚偽の物件受領書の発行者に対してはともかく、善意の保証人に対しては信義則上の保護を受けるに値しない立場にある。したがって、被控訴人が控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に対し本訴請求をすることは許されない。

2  控訴人藤原頼人の錯誤について

(一) 控訴人藤原頼人は、控訴人関や山田智晨の言を信頼して、契約書記載の物件についてリース契約及び割賦販売契約が締結され、右物件が引き渡されたものと信じて、〈書証番号略〉の契約書に署名・捺印した。

(二) 右〈書証番号略〉の契約書には、物件の明細が記載され、右物件に関して成立した主債務について連帯保証する旨の内容となっている。

右契約書記載の物件について真実リース契約及び割賦販売契約が成立することは、本件の連帯保証契約の内容になっている。原判決説示のように動機にとどまるものではない。

(三) 仮に、本件各契約が空リース・空ローンであったことが動機の錯誤に当たるとしても、右動機は本件各契約の契約書に表示されて意思表示の内容になっている。

(四) 本件各契約が空リース・空ローンであれば、控訴人藤原頼人のみならず、一般の人間であっても連帯保証しなかったことは明らかであるから、右の点の錯誤は、要素の錯誤に当たる。

二  被控訴人の答弁

1  控訴人藤原らの主張1は争う。

2(一)  控訴人藤原らの主張2は争う。

(二)  控訴人藤原頼人は、当時多くの加盟店を有するスパー本部の常務取締役であり、スーパーの店の内情に詳しい職業上の知識を備えていた。のみならず、控訴人藤原頼人は、控訴人関の営むスパー加盟店の店舗の改装を指導するなどして、控訴人関の営むスパー加盟店の営業状況はもちろん、同人の人柄も知り得る立場にあった。

右のような立場にある控訴人藤原頼人が、控訴人関が不渡手形を出した後に、被控訴人に対して、保証債務の履行を約束する保証債務履行証書(〈書証番号略〉)を提出しているのである。

控訴人藤原頼人は、控訴人関が手形不渡りを出した時点で本件各契約が空リース・空ローン契約であることを察知し、空リース等により利益を得た山田智晨らに残余のリース料支払いの責任を負わせるため、同人が代表する日製機器に手形を振り出させたものと推測できる。

とすれば、控訴人藤原頼人に要素の錯誤があったとはいえない。

(三)  仮に、要素の錯誤があったとしても、控訴人藤原頼人の前記立場からして、同控訴人が空リース・空ローンであることに気付かなかったのには重大な過失がある。

理由

第一事実関係

前記引用にかかる原判決事案の概要欄記載の当事者間に争いがない事実に、本件証拠(〈書証番号略〉、原審証人宮岡一明、同中村朝行及び同守屋卓治の各証言、原審における控訴人藤原頼人及び控訴人関忠義(第一、二回)の各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

一控訴人関忠義は、昭和四七年ころから、岡山市西市において西市ショッピングセンターを共同経営していたが、昭和五九年三月ころ、広島県東部地区スパー本部株式会社(以下「スパー本部」という。)に加盟し、同社の指導を受けて、西市ショッピングセンターをいわゆるスーパー店舗形式のスパー西市店に改装してその経営を始めた。

控訴人関忠義は、スパー本部の指導を受けるようになって、同社の常務取締役であった控訴人藤原頼人と知り合った。また、スパー西市店の改装工事は、スパー本部の紹介で日製機器株式会社(以下「日製機器」という。)に行わせた。控訴人関忠義は、右改装工事を通じて、日製機器の代表者山田智晨と知り合い、親しくなり、昭和六〇年一二月ころには、山田の依頼により、日製機器の資金繰りのため総額二〇〇〇万円の約束手形(いわゆる融通手形)を振り出して山田に交付した。

二控訴人関忠義は、昭和六〇年一二月七日、岡山市大福にスパー大福店を開店した。右大福店の経営責任者は、控訴人関の娘婿控訴人和気邦昌にした。

スパー大福店の開店のため、約二八〇〇万円程度の費用を要した。日製機器も、代金約一四〇〇万円でスパー大福店の店舗開店内装工事を請け負った。

右開店費用は、二〇〇〇万円を岡山県信用組合から借り入れて、その余は自己資金をもって用意し、支払いを完了した。岡山県信用組合からの借入れは、控訴人関忠義が岡山県信用組合と交渉して契約を締結したが、契約は控訴人和気邦昌の名義を利用して締結した。控訴人関忠義は、控訴人和気邦昌から印鑑を預かり、すべてを任されていた。

三山田智晨は、昭和六一年八月ころ、控訴人関忠義に対し、日製機器の資金繰りのため、前記スパー大福店で行った工事を利用してリース契約等を締結し、金融を得たいので、控訴人関の名前でリース契約等を締結することを承諾してほしい旨を申し入れた。控訴人関は、これを承諾した。

控訴人関の名義を利用したリース契約等の締結手続は、次のとおり進んだ。

1  昭和六一年五月七日付けで福和産業株式会社(以下「福和産業」という。)作成の総額二〇六六万円になるスパー大福店の店舗工事の見積書が、被控訴人に提出された。

2  被控訴人の大阪支店の営業係長であった中村朝行は、昭和六一年一〇月初めころ、日製機器の山田及び福和産業の代表者藤本義明とともに、控訴人関忠義と会った。控訴人関から、リース契約が日製機器の資金繰りのため控訴人関の名義を利用する旨の説明はしなかったし、中村からも、そのような話しはなかった。中村は、契約締結日である同月二九日、スパー大福店を訪ね、店舗内の設備を写真に撮っている。

3  昭和六一年一〇月二九日、福和産業の事務所に関係者が集まり、リース契約書(〈書証番号略〉)及び割賦販売契約書(〈書証番号略〉)が作成された。すなわち、リース契約書の賃貸人欄及び割賦販売契約書の買主欄に控訴人関が署名・押印し、両契約書の連帯保証人欄に、控訴人関が控訴人和気邦昌の署名・押印をし、山田智晨が日製機器の記名・押印をするとともに個人でも連帯保証人として署名・押印し、控訴人藤原頼人も署名・押印した。

リース契約書及び割賦販売契約書とも、その契約条項のなかに連帯保証条項があり、連帯保証契約書と一体になっていた。

リース契約及び割賦販売契約の内容は、次のとおりである。

(一) リース契約の内容

(1) リース物件 スパー大福店店舗設備一式(原判決添付リース物件目録記載の物件)

(2) リース期間 昭和六一年一〇月二九日から昭和六六年一〇月二八日までの五年間

(3) リース料 月額二三万二〇〇〇円

第一月分は現金で支払い、第二月分から第六〇月分まで毎月末日を支払期日とする手形で支払う。

(4) 引渡日 昭和六一年一〇月二八日まで

(5) 売主 福和産業

(6) 保守契約先 日製機器

(7) 保管場所 スパー大福店

(8) 特約 借主は、この契約による債務を担保するため、根抵当権設定契約を締結する。

(9) 期限喪失約款 この契約条項に一つでも違反したときは、直ちに期限の利益を失う。

(10) 遅延損害金 年14.6パーセント

(二) 割賦販売契約の内容

(1) 割賦販売物件 スパー大福店店舗内設備(原判決添付割賦販売物件目録記載の物件)

仕入先 福和産業

保守契約先 日製機器

使用場所 スパー大福店

引渡日 昭和六一年一〇月二八日

(2) 割賦販売期間 昭和六一年一〇月二九日から昭和六六年九月三〇日までの六〇回払い

(3) 割賦販売代金 月額一九万二〇〇〇円

第一回は昭和六一年一〇月二九日に支払い、第二回以後は毎月末日を支払期日とする手形で支払う。

(4) 特約 買主は、この契約による債務を担保するため、根抵当権設定契約を締結する。

(5) 期限利益喪失約款

割賦販売代金の支払いを一回でも怠ったときは、期限の利益を失う。

(6) 遅延損害金 年14.6パーセント

4  控訴人関忠義は、右契約に従って、リース料及び割賦販売代金を支払うため、金額四二万四〇〇〇円と記入された約束手形を五九通振り出して、被控訴人に交付した。

5  控訴人関忠義は、昭和六一年一〇月二九日付けでリース物件を検収した旨のリース物件検収書と割賦販売物件を検収した旨の割賦販売物件検収書を作成し、被控訴人に渡した。しかし、リース物件及び割賦販売物件の引渡・検収は実際にはなく、右検収書の記載は虚偽であった。記載のリース物件及び割賦販売物件は、すでに昭和六〇年一二月の開店の際に用意されていたものか、実際にはスパー大福店には設置されていないものであった。

6  福和産業は、被控訴人に対し、昭和六一年一〇月二八日付け請求書をもって、リース物件及び割賦販売物件の売買代金合計二〇六六万円を請求した。被控訴人は、同年一一月五日、福和産業に対し、二〇六六万円を支払った。

右売買代金は、日製機器の資金繰り等に使用された。控訴人関は、右リース契約及び割賦販売契約を自己の名前で締結するについて、金銭を受け取っていない。

7  なお、前記リース契約及び割賦販売契約の特約に基づく根抵当権は、控訴人関の不動産ではなく、山田智晨所有の不動産に設定されている。

四控訴人和気邦昌は、本件リース契約及び本件割賦販売契約の連帯保証人になるについて、一切を控訴人関忠義に委任し、その印鑑を同人に預けた(右認定に反する控訴人関の供述は採用できない。)。また、控訴人和気は、後記リース料等の不払いが生じた後、控訴人関から、本件リース契約及び本件割賦販売契約の連帯保証人になっていることを知らされ、これを承認している。

五控訴人藤原頼人は、山田智晨から、控訴人関忠義が新店舗開店にともないリース契約等を締結するので、連帯保証人になって欲しい旨の委託を受け(控訴人関からも同趣旨の委託を受けた。)、これを承諾して、リース物件及び割賦販売物件が控訴人関に引き渡され、同人がこれを借り受けるないし買い受けるものと信じて、前記リース契約書及び割賦販売契約書の連帯保証人欄に署名・押印した(ただし、契約書の記載内容は確認しなかった。)。

六前記リース料と割賦販売代金との合計月額四二万四〇〇〇円は、山田智晨がその資金を用意して控訴人関の口座に振り込み手形を決済して支払っていたが、昭和六二年七月三一日を支払期日とする手形を決済することができなかった。

被控訴人会社の担当者は、保証意思の確認のため、控訴人和気邦昌に会ったが、同人は、本件リース契約及び本件割賦販売契約の連帯保証人になったことを認めており、控訴人関が無断で控訴人和気を連帯保証人にした旨の申し出はなかった。

右不渡り分の代金は、同年八月三日に遅れて支払われた。残り五〇回分の代金は、従前どおりの支払条件で日製機器が手形を振り出して支払いを継続し、他の連帯保証人も従前どおり連帯保証の責任を負うことで合意し、その旨の保証債務履行証書(〈書証番号略〉)が作成された。

控訴人藤原頼人は、右保証債務履行証書に署名・押印したが、このときもまだ、本件リース契約及び本件割賦販売契約がいわゆる空リース・空ローンであることを知らされていなかった。

控訴人関忠義は、日製機器の手形が振り出されたため、昭和六二年一〇月二〇日過ぎころ、被控訴人から、控訴人関が振り出していた同年八月分から昭和六六年九月分までの約束手形五〇通の返還を受けたが、同人の責任の免除について特に話し合いはなかった。

七日製機器の振り出した前記手形のうち、昭和六三年四月三〇日を支払期日とする手形が決済できなかった。日製機器の代表者山田智晨及び福和産業の代表者藤本義明は行方不明になった。

被控訴人会社の担当者は、保証債務の履行の確認のため、昭和六三年五月ごろ、控訴人藤原頼人と会った。控訴人藤原は、本件リース契約及び本件割賦販売契約について連帯保証したことは認めたが、これより前の同年五月一一日ごろ、被控訴人から書面による保証債務履行の請求を受け、控訴人関に事情を確かめた際初めて同控訴人から本件リース契約及び本件割賦販売契約がいわゆる空リース・空ローンであったことを知らされているため、その債務の履行については態度をあいまいにした。

第二前項認定の事実関係を前提に被控訴人の請求の当否について検討する。

一控訴人関忠義に対する請求について

1  前記認定の事実によれば、控訴人関は、日製機器の金融を得るため、すなわち、被控訴人が支払う架空のリース物件及び割賦販売物件の売買代金を日製機器が資金繰りに使用することを了解して、自己が本件リース契約の借主及び本件割賦販売契約の買主となり、そのリース料及び割賦代金の支払いを自己振出しの約束手形でするが、右手形の決済資金は日製機器が負担することを山田と約束の上、被控訴人との間で、本件リース契約及び本件割賦販売契約を締結した、と認められる。

とすれば、控訴人関は、被控訴人に対する関係においては、自らが本件リース契約及び本件割賦販売契約に基づく法律上の権利義務を取得する地位につくことを承認し、その当事者になったものであり、ただ、本件リース契約及び本件割賦販売契約から生じる金融の利益を日製機器に取得させ、リース料等の支払いも日製機器に負担させることにしたものと解するのが相当である。

控訴人関は、本件リース契約及び本件割賦販売契約の借主又は買主として単に名義を貸すだけであり、契約の当事者は日製機器であった旨主張するが、控訴人関は、契約書作成に立合って契約書に署名・押印し、リース料等支払いのため約束手形も振り出している、との前記認定の事実関係のもとにおいては、控訴人関が単なる自己名義の利用を許諾しただけで、契約の当事者は日製機器(すなわち、控訴人関こと日製機器)であると解することはできない。

2  名義貸しの主張

控訴人関は日製機器に対し形式的に名義を貸しただけであり、本件リース契約及び本件割賦販売契約の借主ないし買主は日製機器である旨の主張が理由のないことは、前記1で説示したとおりである。

3  通謀虚偽表示・心裡留保の主張

前記1で説示したとおり、控訴人関は、本件リース契約及び本件割賦販売契約に基づく法律上の権利義務を取得する地位につくことを承認し、その当事者になったものであるから、法律的には表示上の効果意思と内心的効果意思との不一致はなく、通謀虚偽表示ないし心裡留保の主張も失当である。

4  控訴人関の錯誤の主張

控訴人関が、日製機器がなす単なる金銭消費貸借契約に借主として名義を貸すだけのものと誤信して、本件リース契約書及び本件割賦販売契約書に署名・押印した、との事実は認められないことは、前記1で説示したところから明らかである。

5  空リース・空ローン契約の主張

前記認定のとおり、本件リース契約及び本件割賦販売契約は、約定どおりのリース物件及び割賦販売物件の引き渡しがなかったものであり、いわゆる空リース・空ローン契約であったと認められる。

しかし、被控訴人の担当者中村朝行が右事実を知っていたか知らなかったことにつき重大な過失があるとまでは認められず、被控訴人がリース料及び割賦販売代金を請求することが信義則違反とは認め難い。

6  控訴人関の免責の主張

控訴人関が、手形不渡り後、振り出していた残りの約束手形五〇通の返還を受けたことは前記認定のとおりであるが、右事実から、控訴人関が本件リース契約及び本件割賦販売契約の当事者として負担する債務も免除された、とまでは認められない。

7  してみると、控訴人関に対して残リース料及び残割賦販売代金の支払いを求める被控訴人の請求は、理由がある。

二控訴人和気邦昌に対する請求について

1 前記第一で認定した事実によれば、控訴人和気は、控訴人関を代理人として(控訴人和気は、控訴人関に包括的な代理権限を与えていた。)、本件リース契約及び本件割賦販売契約に基づく控訴人関の債務を連帯保証する旨約した、少なくとも、控訴人関の右代理行為を追認した、と認めるのが相当である。

2 控訴人和気の名義貸し、通謀虚偽表示・心裡留保、控訴人関の錯誤、空リース・空ローン契約の主張が失当であることは、前記一で説示したとおりである。

3  してみると、控訴人和気に対して連帯保証債務の履行として残リース料及び残割賦販売代金の支払いを求める被控訴人の請求は、理由がある。

三控訴人藤原頼人に対する請求について

1  空リース・空ローン契約の主張について

前記認定のとおり、本件リース契約及び本件割賦販売契約がいわゆる空リース・空ローン契約であったことは認められるが、被控訴人の担当者中村朝行が右事実を知っていたか知らなかったことにつき重大な過失があるとまでは認められないから、被控訴人が控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に対し本訴請求をすることが信義則違反であるとまでは認め難い。

2  控訴人藤原頼人の錯誤について

(一) 前記第一で認定した事実によれば、控訴人藤原頼人は、控訴人関が、本件リース契約に基づきリース物件を借り受けてリース料を支払い、本件割賦販売契約に基づき割賦販売物件を買い受けて割賦販売代金を支払うものと信じて、本件リース契約及び本件割賦販売契約に基づき控訴人関が負担する債務を連帯保証したが、本件リース契約及び本件割賦販売契約は日製機器の金融を得るために控訴人関の名義で契約したもので、リース物件及び割賦販売物件の実際の引渡しはなく(いわゆる空リース・空ローン契約であった。)、リース料金等も日製機器が負担するものであった、と認められる。

(二)  連帯保証契約は、特定の主たる債務を連帯保証する債務の成立を目的とする契約であるから、主たる債務がいかなる契約から生じるかは連帯保証契約の当然の前提をなし、連帯保証契約の内容になっているものである。主たる債務がいかなる契約から生じたかという主たる債務の発生原因は、主たる債務者がその契約によって得た金融をどのように利用するか、他に連帯保証人がいるか、あるいは物的担保があるか否か、といった当然には連帯保証契約の内容となり得ない事情(いわゆる動機の錯誤に当たる事情)と同一視することはできない。

少なくとも、本件においては、連帯保証契約の契約書は、本件リース契約及び本件割賦販売契約の各契約書と一体になっており、債権者である被控訴人も、本件リース契約及び本件割賦販売契約が、借主ないし買主である控訴人関においてリース物件及び割賦販売物件の引渡しを受け、リース料及び割賦販売代金を負担して支払う通常のリース契約及び割賦販売契約であることを前提にしていたものと認められるから、控訴人藤原頼人が連帯保証する主たる債務を発生させる本件リース契約及び本件割賦販売契約は、対象物件の引渡しが行われ、借主ないし買主である控訴人関がリース料金及び割賦販売代金を負担して支払う態様であることは、連帯保証契約の内容として契約書上明確に表示されていたものということができる。

(三)  そして、本件リース契約及び本件割賦販売契約において、リース物件及び割賦販売物件の引渡しがなく、リース料及び割賦販売代金を控訴人関が負担するものではないことを知っていれば、控訴人藤原頼人は、本件リース契約及び本件割賦販売契約について連帯保証しなかったと認められるし(原審における控訴人藤原頼人本人尋問の結果)、客観的にみても、通常人ならば連帯保証しなかったと認めるのが相当である。

したがって、控訴人藤原頼人の主たる債務の態様に関する錯誤は、連帯保証の意思表示の要素の錯誤に該当すると認めるのが相当である(本来主たる債務者の財産状況は、保証人の危険において判断すべきものであるから、主たる債務者の資力に関する錯誤は当然には要素の錯誤に当たることはないと解されるが、保証人が保証するについて与えられる情報である主たる債務の発生原因についての錯誤は、保証人が当然に引き受けた危険であるとはいえないから、前者と同一視して要素の錯誤に当たらないとすることはできない。)。また、本件においては、控訴人関ではなく、日製機器がリース料及び割賦販売代金の負担をするのであるから、実質的には主たる債務者の同一性についての錯誤がある場合と同視できるともいえ、この点からも、控訴人藤原頼人の意思表示には要素の錯誤があったと認めるのが相当である。

リース契約及び割賦販売契約が実質的には融資目的の実現にあるから、空リース・空ローン契約においても代金相当額の融資を受け、これに利息等相当額を加えた金額を返還することに変りなく、この点の錯誤は意思表示の重要な部分に関する錯誤、すなわち要素の錯誤には当たらないとの見解がある。しかし、リース契約及び割賦販売契約がその経済的実質において金融であるとしても、右両契約の法的形式は賃貸借及び売買であるのみならず、実際上も通常は財貨の移動を伴う契約であることを考えるならば、そのことを無視して右両契約を単なる融資契約と同一視することは当を得ないものといわなければならない。

(四) 被控訴人は、控訴人藤原頼人の錯誤は重大な過失がある旨主張する。しかし、控訴人藤原頼人の職業、契約書の内容を確認しなかったことを考慮しても、被控訴人がリースの専門業者であることと対比して、重大な過失があったとまでは認められない。

(五) したがって、控訴人藤原頼人の連帯保証の意思表示は、錯誤により、無効であると認められる。

なお、主たる債務者である控訴人関は、自ら空リース・空ローンに関与したものであり、その無効を主張し得ないと解されることはすでに説示したとおりであるが、保証債務に付従性があるからといって、連帯保証人である控訴人藤原頼人が主たる債務者控訴人関のなした空リース・空ローンを理由に連帯保証契約の錯誤による無効を主張することが許されないと解すべき理由はない。連帯保証人の意思表示は、主たる債務者の意思表示とは別個の意思表示だからである。

3  とすれば、被控訴人の控訴人藤原頼人に対する請求は理由がない。

四控訴人藤原美矢子に対する請求について

被控訴人の控訴人藤原頼人に対する連帯保証債務履行請求権が認められないことは、すでに説示したとおりであるから、右請求権の存在を前提にする被控訴人の控訴人藤原美矢子に対する詐害行為取消しの請求も理由がない。

第三結論

してみると、被控訴人の控訴人関及び控訴人和気に対する請求は理由があるからこれを認容し、被控訴人の控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、控訴人関及び控訴人和気の控訴は理由がないから両名の控訴を棄却し、控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子の控訴は理由があるから両名の控訴に基づき原判決中控訴人両名に関する部分を取り消して、被控訴人の控訴人藤原頼人及び控訴人藤原美矢子に対する請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官小林正明 裁判官渡邉了造)

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